北海道大学大学院歯学研究院の友清淳先生らが発表された
〈Hyaluronic Acid Induction Promotes the Differentiation of HumanNeural Crest-like Cells into Periodontal Ligament Stem-like Cells〉
という論文中に、弊社のNANONが使用されました!論文を要約してご紹介させていただきます。
歯周組織を構成する一部の組織に歯周靭帯(PDL)という組織があり、PDLが修復不可能なほど損傷すると、歯周炎が進行し歯が失われる可能性があります。歯周組織には歯周組織を再生する能力を有する歯周組織幹細胞(PDLSC)が含まれていますが、歯周組織中のPDLSCの個体数は非常に少ないと考えられていて、自家PDLSCの移植は制限されてしまいます。
神経堤(NC)細胞はさまざまな細胞および組織に分化し、一部のNC細胞は頭蓋NCにとどまることでPDLSCを生み出すことができます。このことから、歯周組織内のNC細胞をPDLSCに分化させることで、歯周組織の再生を促進できる可能性があると考えられます。
しかし、大量の NC 細胞を取得することの難しさが、再生研究における NC 細胞の応用を制限する主な要因となっています。
そこで、歯周組織再生のための歯周組織幹細胞の培養方法として神経芽細胞腫細胞株であるSK-N-SH細胞に着目し、細胞培養のための新しい足場を開発しました。
歯ってなくなると困るので大事にしたいですが、ケアも難しいですよね。
再生できる方法ができるならすごく助かりますね!
まず、ヒトの歯の根面からPDL組織を剥離し培養し、ヒトPDLC(HPDLC)を得ました。このHPDLCをさらに培養し、処理・剥離することでHPDLC由来のECM(HPDLCs-ECM)でコーティングされたプレートが得られました。
このプレートにSK-N-SH細胞を播種して培養し、SK-N-SH細胞由来PDLSC細胞(SK-PDLSC)を得ました。qPCRで分析すると、SK-PDLCはSK-N-SH細胞と比較するとPDL関連遺伝子の発現が優位に高いことがわかりました。
また、SK-PDLSCの多分化能を調べるために、骨芽細胞関連遺伝子と脂肪細胞関連遺伝子の発現レベルも分析しました。骨芽細胞関連遺伝子・脂肪細胞関連遺伝子どちらの発現レベルも優位に高い結果となり、これらの結果からSK-N-SH細胞がNCからPDLSC分化誘導のためのモデルとして有用であることが証明できました。
過去に行われた研究では、iPS細胞由来NC(iNC)からiPDLSCへの分化でヒアルロン酸(HA)関連遺伝子の発現が高くなった結果が出ています。今回の研究でもiNCおよびiPDLSCにおけるHA遺伝子の発現レベルを解析したところ、過去の研究と同じように、HA関連遺伝子が発現していました。この知見をもとに、SK-N-SH細胞とSK-PDLSCsにおけるHA関連遺伝子の発現を観察すると、 HA関連遺伝子はSK-N-SH細胞よりSK-PDLSCsでより高発現していました。
HAの表面受容体であるCD44は、活性化することにより細胞内シグナル伝達経路の開始を誘導します。このCD44抗原は歯周組織で発現し、HA-CD44相互作用はPDL細胞増殖と石灰化に関連することがわかっています。
CD44発現SK-N-SH細胞を使用してSK-PDLSCへの分化におけるHAシグナル伝達の関与を調査しました。CD44+SK-N-SH細胞をHPDLSCs-ECMを塗布したウェル上で培養すると、PDL関連遺伝子の発現が有意に高くなりました。また、siRNA を利用した実験ではCD44を阻害すると分化能力が低下することが確認できました。
これらの結果から、CD44はSK-N-SH細胞からSK-PDLSC分化への重要な調整因子であると判断されました。
以前の研究より、HA分子が様々な種の幹細胞や先駆細胞の分化に影響を及ぼすことが報告されています。この知見をもとに、高分子ヒアルロン酸(HMWHA)と低分子ヒアルロン酸(LMWHA)を使用してSK-N-SH細胞からSK-PDLSCs分化に対するHAの効果を調べました。HPDLCs-ECMおよびLMWHAの存在下で培養したSK-PDLSCが、LMWHAによる最初の刺激により、CD44およびPDL遺伝子の発現レベルが優位に高くなることがわかりました。 次に、PCL溶液にLMWHAを混合した溶液を、エレクトロスピニング技術を利用してナノファイバー膜を作製しました。
弊社のNANONで作られた
エレクトロスピニングナノファイバー膜です!!!
ナノファイバー膜から放出されたHA濃度が十分であることを確認した後、SK-N-SH細胞を播種したウェルの細胞上にナノファイバー膜を置いて細胞培養を行い、培養した細胞からCD44およびPDL関連遺伝子の発現を調べました。 結果として、HPDLCs-ECMおよびLMWHA混合ナノファイバー膜存在下培養SK-N-SH細胞は、CD44およびPDL関連遺伝子の発現が高くなっていることが確認できました。これは膜内のHAが放出され、連続刺激化でPDL関連遺伝子の発現を増加させたためだと考えられます。
高比表面積かつ細胞接着性が良いのでドラックデリバリーシステムにナノファイバーは有効ですね☻
以上のことから、SK-N-SH細胞が歯周組織再生のための細胞培養モデルとして有用性があることがわかりました。また、LMWHAを放出する生分解性足場を使用することで、PDL内のNCを活性化・分化させ、PDLSCの数を増やし、破壊された歯周組織を再生できると期待されます。
今後は生体内で適応可能か実験を行っていき、調査を続けていく予定だそうです。
細胞培養足場にナノファイバーが使用されることはよくありますが、粒子を混ぜ込むんだナノファイバーを使用することで、培養に加えてドラックデリバリーシステムによる刺激を加え細胞発現を促すアイデアが興味深く、とても勉強になりました! 今後の展開も楽しみです♪
M.Anas Alhasan , Atsushi Tomokiyo,et al. (2023)MDPI. Hyaluronic Acid Induction Promotes the Differentiation of HumanNeural Crest-like Cells into Periodontal Ligament Stem-like Cells (https://www.mdpi.com/2073-4409/12/23/2743)