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技術情報

【論文】3D 電界紡糸 – “ナノファイバー・マシェ・ボール”

 

国立福井大学、ナノファイバーの研究で世界的に有名な藤田准教授の研究室で、
嚢胞の立体構造を模した「ナノファイバー・マシェ・ボール」の作成に成功されました。
当社の電界紡糸装置を使って頂いております。
たいへん興味深い記事です。 ご覧ください。

https://doi.org/10.3390/polym13142273
※訳文を下記します。 拙訳にてごめんください。

 

嚢胞の立体構造を模したナノファイバー・マシェボール

〈はじめに〉

嚢胞とは内部に液体および半固体性物質を有する球形蓑のような多細胞構造である。
通常は自然治癒し無害であるが時に悪性腫瘍に変化することもある。
嚢胞のinvitroの細胞行動の解明は、3D細胞凝集体を作成できても嚢胞のような中空構造が形成できないため
困難であった。
本研究では中空ナノファイバー球である制御されたナノ構造をとる
「ナノファイバー・マシェボール」というモデル嚢胞をエレクトロスピニング(ES)により作成した。
アルギン酸ヒドロゲルは良好な生体適合性および生分解性をもつ褐藻類から得られる天然親水性
及びアニオン性多糖類であり、生物医学的用途について広範囲で調査されている。
アルギン酸塩は二価カチオンの存在下でゲル化しやすい一方で、
架橋アルギン酸はエチレンジアミン四酢酸(EDTA)によりキレート形成され容易に溶解できる。
マトリックス繊維には生体適合性および柔軟性のあるポリエステルである
ポリ(3-ヒドロキシブチレート-co-3-ヒドロキシヘキサエノート)(PHBH)を選び、
ESを用いて細胞外マトリックス(ECM)を模倣し特定のトポグラフィーをもつナノファイバーを作成した。

 

〈材料〉

PHBH(3HH=10.6mol%)
アルギン酸ナトリウム(500cps)
クロロホルム(CHCl3)
塩化カルシウム(CaCl2)

 

EDTA

〈ナノファイバー・マシェボールの作成方法〉

まず5w/v%アルギン酸ナトリウムを1w/v%CaCl2に断続的に滴下し、
アルギン酸ヒドロゲルビーズを作成した。次にアルギン酸ビーズにアルミ線を貫通させ、
エレクトロスピニングコレクターの回転軸に沿って設置しエレクトロスピニングを行った。
密度と向きはコレクタの回転時間と回転速度から制御した。
ES後カルシウムイオンによりゲル化したアルギン酸ヒドロゲルを10mM EDTA溶液で10分間6回洗浄し、
1晩EDTA溶液中に保持してカルシウムイオンをキレート化した。洗浄後は細胞培養に用いた。

 

(ES条件)

・溶液 15w/v% PHBH-CHCl3 ・装置 NANON ・電圧 29kV
・Feed Rate 0.1ml/h ・ノズルコレクタ間距離 100mm
・最内層 紡糸時間45分、回転速度100rpm(ランダム繊維)
・中間層 紡糸時間25分、回転速度500rpm(弱く配向)
・最外層 紡糸時間25分、回転速度1000rpm(強く配向)

 

〈ナノファイバー・マシェボールの形態分析結果〉

・内径 3.8mm、外径4.1mm、内部体積230mm3

・コアアルミニウムコレクタから外された際に2つダクトができ、細胞懸濁液注入に利用できる。
内径0.58mm。

・ボールの内側は繊維がランダムで表面が滑らか。繊維径1.70±0.41mm、配向パラメーター0.11±0.06。
繊維は密に詰め込まれ、多孔質ではあるが細胞が壁を貫通できる隙間はない。
このため酸素や栄養素は外部から供給可能だが、細胞はダクトを介してのみ移動できる。

・外側は円周方向に向かって配向。繊維径1.76±0.57mm、配向パラメーター0.51±0.07。

・ボールはアルギン酸ビーズのサイズと回転速度を調整することで様々なタイプのものが作成できる。

・ATR-FTIRスペクトル測定から残留アルギン酸が存在しないことを確認。

・セスシルドロップ法による水接触覚測定の結果から、酵素プラズマ処理を行うことで疎水性ポリマーである
PHBHを親水化したことを確認。

・細胞接着に優れた微小環境を提供する。

・長期培養した細胞は高配向構造を形成し、ダクトの中心に向かって径方向に細くなっていた。
これは栄養素と酸素の局所濃度の違いによるものである。
このことから濃度勾配は細胞の拡散と移動を誘引する可能性があると考えられる。

・ダクト周辺の繊維は導電性ワイヤに直接エレクトロスピニングされたため、ランダムに紡がれている。

・内面からダクトに移動する細胞が過度領域に達すると、繊維構造が魚瓶トラップのように
細胞が外側に移動するのを防ぐ。また、長期培養の層内の細胞は内面を覆っていたが、
繊維に深く浸透しなかった。壁は非多孔質で、細胞の移動を阻害するのに十分な密度であった。
このことからナノファイバー・マシェボールは適切な細胞接着表面を提供できる。

・細胞外マトリックス構造の密なネットワーク生成も明らかになった。
直径225±136mmの薄い繊維を確認。PHBH足場及び細胞自体よりもはるかに薄く、
コラーゲン繊維と似ていることからU-251細胞で産生されるECM繊維と考える。

 

〈結論〉

アルギン酸ビーズを溶解することで新しい3D中空ナノファイバー・マシェボールを
作成することができた。ビーズによって残された中空空間とナノファイバーの異方性は
細胞培養モデルの嚢胞の環境を模倣している。
また、PHBH中空ナノファイバー・マシェボールは細胞間及び細胞ECM相互作用の研究の
ためのinvitro培養システムを提供する。
この研究の実験モデルは嚢胞内の生物学的挙動の分析を容易にする。
最終的には悪性形質転換などの臨床的に解明されていない現象に光を当てる可能性がある。
この研究で医療用途への大きな可能性を示唆した。

 

〈用途〉

・嚢胞の生体外モデル(嚢胞におけるECMの生物学的役割のさらなる調査等)
・体内組織や器官の足場としての機能
・動脈瘤の最適な治療法の開発の可能性
・血栓性動脈瘤の成長メカニズムの分析
・ほかの臓器や組織を模倣したナノファイバー・マシェのテンプレート作成  等